大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

熊本地方裁判所 昭和59年(ワ)438号 判決 1988年8月09日

原告

太田文則

被告

豊永諒一

主文

原告の請求(反訴請求)を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一反訴請求の趣旨

一  被告は原告に対し、金一五三万〇九三一円及びこれに対する昭和五九年五月一九日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

第二反訴請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決を求める。

第三反訴請求の原因

一  事故の発生

(一)  発生日時 昭和五八年二月一〇日午前八時一五分ころ

(二)  発生場所 熊本市帯山四丁目三五番九号先交差点

(三)  加害車 普通乗用自動車(熊五六と八七三八)(以下「被告車」という)

運転者 被告

(四)  被害者 普通乗用自動車(熊五六に七八五八)(以下「原告車」という)

運転者 原告

(五)  事故態様 本件交差点をそれぞれ、北から南へ直進する被告車と東から西へ直進する原告車が衝突した。

二  原告の受傷内容、診療経過及び後遺障害

(一)  受傷内容

原告は、本件交通事故により頸肩腕症候群の傷害を負つた。

(二)  診療経過

原告は、次のとおり入、通院して、右傷害について診療を受けた。

(1) 井病院

通院 昭和五八年二月一〇日、同月一四日、同月一五日。

入院 昭和五八年二月一六日から同年四月一日まで四五日間。

通院 昭和五八年四月二日から同年九月二八日まで。

通院実日数五三日。

(2) 熊本整形外科病院

通院 昭和五八年一二月一二日から昭和五九年四月一三日まで。

通院実日数一七日。

(三)  後遺障害

原告は、現在なお通院中であるが、自動車損害賠償法施行令別表等級第一四級に相当する左頸部、左肩および左上肢にかけての神経痛の後遺障害を蒙つた。

三  責任原因

被告は、本件交通事故当時被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、本件交通事故による原告の損害につき自動車損害賠償保障法第三条本文による責任がある。

四  原告の総損害

(一)  入院関係費用

合計金九八万四六六〇円

(1) 診療費(井病院分) 金七四万〇五〇〇円

(2) 入院諸雑費 金四万五〇〇〇円

原告の井病院への入院期間四五日について一日金一〇〇〇円の割合で計算した諸雑費。

(3) 入院付添費 金一八万二六二〇円

原告の四五日間の入院期間中、原告の妻が付添看護のため井病院に通院した交通費金二万五一二〇円および一日につき金三五〇〇円の入院付添費の四五日分金一五万七五〇〇円の合計金。

(4) 交通費 金一万六五四〇円

原告が井病院に入退院した際および通院した際の交通費。

(二)  文書料 合計金一万二五〇〇円

交通事故証明書五通および診断書二通の費用として原告が支払つたもの。

(三)  休業損害 金三二万九〇〇四円

原告は、本件交通事故により昭和五八年二月一七日から同年四月六日までの四九日間勤務先を欠勤し、その間三七日の年次有給休暇を使用した。本件交通事故による欠勤前三ケ月の支給給与の合計は金八〇万〇二六四円であるので、一日あたりの支給給与は金八八九二円となる。したがつて三七日間の休業損害は金三二万九〇〇四円である。

(四)  慰謝料 合計金一七五万円

原告の本件交通事故による受傷内容、入通院期間、後遺障害の程度等は、第二項記載のとおりであり、それによれば、その肉体的精神的苦痛に対する慰謝料の額は次の金額を下らない。

(イ) 入通院分 金一〇〇万円

(ロ) 後遺障害分 金七五万円

(五)  弁護士費用 金二七万円

原告は、原告訴訟代理人に本訴に対する応訴および反訴の提起、追行を委任し、金二七万円を手数料および報酬として支払うことを約束した。

五  損害の填補 金一二〇万円

原告は本件交通事故により自動車損害賠償責任保険から金一二〇万円の支払を受けた。

六  よつて、原告は、被告に対し、本件交通事故に基づく損害賠償として、前記四の(一)ないし(四)の損害合計金三〇七万六一六四円の八割(二割の過失相殺をする)に同四の(五)の金二七万円を加え同五の填補額を差し引くと金一五三万〇九三一円となるから、この金一五三万〇九三一円およびこれに対する反訴状送達の日の翌日である昭和五九年五月一九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四反訴請求の原因に対する答弁

一  反訴請求の原因第一項は認める。

二  同第二項について

(一)は不知。

(二)について

(1)のうち、昭和五八年二月一〇日、一四日、一五日の通院及び昭和五八年二月一六日から同年四月一日まで四五日間の入院は認める。その余は不知。

(2)は不知。

(三)は否認し争う。

三  同第三項は認める。

四  同第四項は争う。

五  同第五項は認める。

六  同第六項は争う。

第五被告の主張(過失相殺)

本件は、見通しの悪い交差点を互に直進する車両の出合頭の衝突事故である。被告としては、速度を落して進行したものの徐行義務を完全に履行したとは言い難く、この点被告に注意義務違反があることは認める。しかしながら、原告は、交差点に進入するについて減速もせず、衝突するまで被告車に気づかず、被告車が原告車に僅かに接触してすぐ停止したのに、速度の出ていた原告車はそのまま進行して、左前方角のブロツク塀に衝突したのである。

過失割合として、原告に六〇パーセントを越える過失が認められる本件においては、過失相殺後、原告に対し被告が支払うべき賠償額は存在しない。

第六原告の認否

事故の内容については否認し、過失割合については争う。

第七証拠

本件記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因第一項(事故の発生)及び第三項(責任原因)については、当事者間に争いがない。

二  いずれも成立に争いのない甲第八号証の一ないし一七、第九号証の一ないし一二、乙第三号証ないし第六号証、第七号証ないし第九号証の各一、二、第一〇号証、第一三号証、第二〇号証、原告(太田文則)及び被告(豊永諒一)各本人尋問の結果を綜合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、有効幅員約三・三米(被告進路)と同三・六米(原告進路)の比較的狭い二つの道路が十字に交差する交通整理の行われていない交差点内で、同交差点の北東角附近には、人家の生垣が道路沿いに密植されているため、同方向への見通しは極めて悪いこと。

2  被告は、右交差点を北から南へ進行するに際し、左方の見通しがきかないのに、徐行して安全を確認することなく、低速で交差点に進入したところ、原告車が交差道路を左(東)から進行して交差点に進入して来るのを認め、急制動したが及ばず、被告車の前部中央附近を原告車の右側前ドアの前部附近に衝突させ、その場に停止したが、原告車はそのままやゝ左斜前方寄りに進行して、交差点南西角のブロツク塀に車体の左側面を衝突させて停止したこと。

3  原告は、同交差点を東から西へ比較的低速で進行するについて、右方の交差道路の見通しがきかないのに、徐行して安全を確認することなく、そのまま交差点に進入し交差点内で被告車と衝突する直前まで被告車の存在に気づかなかつたこと。

以上の事実が認められ、原告及び被告各本人の供述中右認定に反する部分は採用できず、他にこの認定を妨げる証拠は存在しない。

右によれば、本件事故発生については、原被告双方に、見とおしの悪い交差点を通行するについて徐行義務を怠り(道交法四二条)、交差道路を通行する車両の有無を確認して、安全な速度と方法で進行しなかつた不注意がある(同法三六条四項)ことが明らかであるが、被告の進路はより狭い道路であるから、交差点前で一時停止をする等一層の注意運転が望まれること及び座席の位置からして左方道路の車両をより早く確認できることを考慮し、過失割合は原告が四に対し被告が六とするのが相当である(なお、道交法三六条一項一号の規定は、交通整理の行われていない交差点を通行する車両等の先順位(すなわち、どちらの車両が先に交差点を通過するか)を定めたものであつて、そのまま直ちに、本件の如き交差点内における出会頭の衝突の場合における、双方の過失割合の判定基準となるものではない。)。

三  そこで、以下原告の損害について判断する。

1  原告の受傷及び治療

原本の存在及びその成立に争いのない甲第六号証及び第七号証、成立に争いのない乙第三八号証並びに証人井昭成の証言によれば、原告は本件事故により頸部に鞭打ち傷害を受け(頸肩腕症候群)、井病院(熊本市九品寺所在)にて、昭和五八年二月一六日より同年四月一日まで四五日間入院して、及び昭和五八年二月一〇日より同年九月二八日までの間に合計五六日(治療実日数)通院して、それぞれ治療を受け、右昭和五八年九月二六日頃までには治癒したことが認められる。右認定を覆すに足る証拠はない。

他方において、原告主張のその余の治療(熊本整形外科病院における)に関しては、それが本件事故と相当因果関係のある傷害についての必要かつ相当な治療であることを認めるに足る証拠はない。また、原告主張の後遺障害についても、これを肯認できる充分な証拠は存在しない。

2  右受傷に基づく原告の損害は、次のとおりである。

(一)  診療費(井病院分) 金七四万〇五〇〇円

前顕甲第七号証によつて認める。

(二)  入院諸雑費 金四万五〇〇〇円

入院四五日につき、一日当り一〇〇〇円をもつて相当と認める。

(三)  入院付添費

前顕甲第六号証及び証人井昭成の証言によれば、原告は入院中付添看護を要しなかつたことが認められる。従つて、付添費は損害として認められない。

なお、原告の妻の通院に要した交通費は、前項の入院諸雑費において考慮した。

(四)  交通費 金一万六五四〇円

弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第三五号証の八及び九並びに原告本人尋問の結果によつて認める。

(五)  文書料 金一万二五〇〇円

成立に争いのない乙第三一号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、文書料として相当の損害と認められる。

(六)  休業損害

弁論の全趣旨により成立の認められる乙第三二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時、西日本通信建設株式会社に勤務していたものであるところ、本件受傷により昭和五八年二月一七日より同年四月六日までの間に、合計三七日欠勤したが、年次有給休暇を使用したため、右欠勤期間中の給与は全額支給を受けたことが認められる。さすれば、休業損害は認められないものといわねばならない。もし、原告において病気治療のため年次有給休暇の使用を余儀なくされたことにより、何らかの財産上の不利益を蒙つたというのであれば、それを請求すべきであり、本件においてはその主張立証はない。

(七)  慰藉料 金五〇万円

本件事故の態様並びに原告の受傷の部位・程度及び入通院期間その他本件に顕われた諸般の事情を勘案すると、原告の蒙つた精神的損害に対する慰藉料としては、金五〇万円をもつて相当と認める。

四  以上に認定判断したところによれば、原告の損害額は合計金一三一万四五四〇円となるところ、上述した原告の過失を斟酌すると、その六割に相当する金七八万八七二四円につき、被告は原告に対し損害賠償義務を負うことになる。しかるところ、原告は本件事故につき、自賠責保険からすでに金一二〇万円の損害賠償額の支払を受けていること当事者間に争いがないから、原告にはもはや被告に対し請求できる損害賠償額は存在しないものといわねばならない。

五  よつて、原告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 土屋重雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例